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「徴用工判決」日本の“経済的報復”で困るのは韓国? それとも日本?
2019/03/27 06:00


『国家不渡りの日』――。昨年11月、韓国でこんな物騒なタイトルの映画が公開された。同作は公開後12日間で観客動員数260万人を突破し大ヒット。今後、日本も含む世界17カ国でも公開される予定だという。
 同作が描くのは、アジア通貨危機に端を発する韓国の「IMF危機」の時代を生きる人々だ。1997年、韓宝鉄鋼や起亜自動車の倒産を皮切りに韓国経済は大混乱に陥った。アメリカのS&P社やムーディーズ社は韓国の格付けを相次いで下方修正し、株価は大暴落。国家破綻の危機に追い詰められた韓国政府はIMF国際通貨基金)に資金支援を要請した――というのが「IMF危機」。韓国では、この事件を戦前の日本統治に続く「第2の国恥」と呼ぶ。そのため、当時の大統領だった金泳三氏は、現在、韓国内で最も評価の低い大統領の1人とされている。
 なぜ今、21年前の「IMF危機」を描いた映画がヒットしたのか。その背景には、韓国世論に1997年以来の“経済への危機感”が再燃しているからに他ならない。韓国でヒットする映画には、その時代の社会背景を色濃く反映する傾向がある。例えば、2015年に観客動員数1200万人を記録した『ベテラン』は、ベテランの警察官が、調子に乗って好き勝手やりまくる財閥グループの御曹司を捕まえるという“勧善懲悪ムービー”だったが、その前年に大韓航空の副社長が「ナッツ・リターン事件」を起こし、国民全体に「財閥の連中を許すな!」という空気があったために爆発的なヒットとなった。
 事実、文在寅大統領の経済政策に対する韓国世論の評価は非常に厳しい。今年2月に行われた世論調査によると、文政権の経済政策について否定的な評価は61%で、肯定的な評価(23%)を引き離している。また、労働雇用政策についても否定的な評価は59%で、肯定的な評価(26%)を上回っている。
 韓国富士ゼロックス元会長の高杉暢也氏は、 「文藝春秋」4月号 に掲載された座談会(「日韓断交」完全シミュレーション)の中でこう指摘している。
「現在の韓国経済は、数字的には非常に悪い状況にある。2018年、韓国で売上高の上位30社のうち20社が赤字でした」
 また、昨年廃業した自営業者は100万人規模に増加したという。大手メディアも「自営業の景気低迷は最近のことではないが、文在寅政権の所得主導成長政策がさらに冷や水を浴びせた」(「朝鮮日報」3月25日社説)と批判のトーンを強めている。

 さらに、韓国経済に深刻な影を落としているのが“反日旋風”である。昨年10月以降、立て続けに出た「徴用工判決」によって在韓日本企業の資産が取り押さえられる事態となり、日本の経済界は韓国に対し厳しい目を向けている。麻生太郎財務大臣も3月12日の衆議院財務金融委員会で、「関税に限らず、送金の停止、ビザの発給停止とか色んな報復措置があろうかと思う」と異例の強い言葉で“報復措置”を示唆した。
 もし、日本が韓国に対する経済的な報復措置を行った場合、どうなるのか。
 前出の高杉氏は「仮にそれを実行したとして『どちらが困るか』といえば、やはり韓国の方が困るでしょう」とした上で、こう指摘する。
「中国が台頭しているとはいえ、影響力が大きい日本企業がいなくなることは、韓国人の“飯の種”を根幹から危うくすることになります」
 しかし影響を受けるのは韓国だけではない、とも高杉氏は付け加える。
「日本にも大きな影響があります。例えば、日本の精密部品メーカーはサムスンやLGが主要な納品先です。日韓経済は複雑に絡み合っており、その枠組み自体を破壊することによる被害額は莫大過ぎてカウント不可能です」
 韓国の大手紙「中央日報」は、 「文藝春秋」4月号 発売直後の3月14日、座談会における高杉氏の発言を引用し、「『韓国を制裁すれば日本にも莫大な被害』…日本でも経済報復無用論」という見出しをつけてこう報じた。
〈日本が韓国の半導体事業などをターゲットに報復措置を取れば韓国企業も当然打撃を受けるが、ここに部品を供給する日本企業にもブーメランのように2次被害が生じる構造ということだ〉
 今後も日韓経済が正常な状態を維持していくためにも、文政権の“反日政策”こそ見直すべきではないか。
「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2019年4月号)


新しい日本企業がサムスンやLGの代わりに、日本製精密部品を使って世界に製品を提供しようとはならないところが不思議なところ。