中国の目指すところ


事態はここまで悪化した 尖閣周辺で我が物顔の中国

米国の海洋戦略専門家が発する重大な警告

2017.3.14


「日本にとっては危機的な状況かもしれません。中国が海警だけで攻勢をかけても、正規の軍事攻撃ではないため、安保条約での米軍の出動の条件にはならないからです。しかし、中国は海警の艦艇に新鋭の大型船を次々に導入しています。しかもじわじわとその性能を高め、日本の海上保安庁の巡視船を疲弊させている。持久戦、消耗戦略です。日本側の現状をみると本当に消耗させられそうですね」

――中国は、軍事力によって尖閣諸島を奪取しようと意図しているのですか。
「今はまだそこまで考えず、日本の施政権を崩す消耗戦略を続けようとしているのでしょう。しかし、尖閣を奪取するための『短期で過激な戦争』という戦略を以前から準備していることも事実です。その場合、米軍が介入してくると予想すれば、軍事攻撃には踏み切りません。ただし、日本が先に攻撃をする、あるいは挑発をする、という状態で軍事衝突が始まれば、中国側は米軍は介入しないだろうと判断する可能性もあります」

尖閣に関する中国側の新しい動きとして注目されるのが、中国海軍の東シナ海での増強です。海軍が艦艇の数を増し、演習も規模と回数を増しています。昨年12月には空母の遼寧を中心とする機動部隊が宮古海峡を通り、台湾の東岸を抜けて、南シナ海へと航行して大規模な演習を実施しました。つい数日前にも別の中国艦隊が同じように宮古海峡を通りました。航空機の活発な動きもそれに合わせて目撃されています。中国軍は東シナ海での活動を強め、勢力圏を拡大して、戦略的特権を確立しようとしているのです」

――東シナ海で「戦略的特権」の確立を目指しているとは、どういうことでしょうか。

東シナ海における力のバランスを決定的に中国側に有利にして、コントロールできるようにすることです。

その背後には、中国の復興という野望があります。習近平国家主席が『中国の夢』という言葉で表現するのも、この中華帝国の復興という目標です。そのために東シナ海南シナ海の制圧を目指しているのです。
 さらにその背後にあるのが、いまの世界を米国一極から多極へと変えようという野望です。その多極世界では米国、中国、ロシア、EU欧州連合)、インドなどの数カ国がパワーを保持して、並列的に並ぶことになります。日本は、もちろんそこには含まれません。アジアでは中国が主導権を持つわけです。いまの尖閣問題というのは、このように多様な要因を含む争いの縮図だと言えるでしょう」

――日本では尖閣諸島になんらかの形で人を配置すべきだという意見もあります。

「日本がそういう行動を取りたくなる心情はよく理解できます。しかし中国側からすると、紛争の新たなエスカレーションあるいは挑発とみて、軍事的な対抗措置に出る機会となります。中国側は、そうした日本側のエスカレーションあるいは挑発から日中間で軍事衝突が起きた場合、米国は介入しないだろうとみる可能性があります。
 だから日本としては、米軍の力を借りずに自力で中国軍を撃退できる能力を保っておかなければなりません。日本のその能力を認識することで、中国は攻撃を差し控えます。つまり、抑止の効果が生まれるわけです。
 トランプ政権が尖閣防衛を公約したといっても、米軍の出動には必ずいくつかの前提条件が出てきます。日本側はその点をよく認識しておくべきでしょう」

 以上のようなヨシハラ氏の見解は、中国の尖閣諸島への攻勢によって日本がどれほど国家的な危機に直面しているかを明確に示していると言ってよい。