ブート品 言葉による詐欺、すり替え



ロゴ無断使用「ブート品」 無知な若者が高値取引の異常事態

2018/07/22 16:00 News ポストセブン

有名ブランドのロゴなどを勝手に使用したカジュアル衣料の一部を「ブート品」と呼び、パロディ作品でありカスタマイズ商品だと言って売買する人たちがいる。しかし、そもそも「ブート」とは海賊版bootleg)という言葉に由来しており、商標法違反の偽ブランド品だ。そういった海賊版の知識がない若者を相手にブート品と称するものが路面店だけでなくフリマアプリでも売買されている問題について、ライターの森鷹久氏がレポートする。
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「レトロな感じで一周回っておしゃれな感じ。半年前にメルカリで一万円で買ったけど、今はもっと値段が上がっている。古着だから希少価値も高いし……」
 こう話すのは、高級ブランド「グッチ」のロゴが入った古めかしいTシャツを着た女子大生。東京・表参道からわき道にそれた、アパレル店や雑貨店が並ぶ通称「キャットストリート」を歩く彼女が着ているのは、実は、グッチが十数年前に出していたアイテムの「古着」ではなく、十数年前に海外の業者が作ったれっきとした偽物。 要は「まがい物の古着」なのだ。
 7月、警視庁は「ブート品」と呼ばれるトレーナーやTシャツなどを扱う、都内の古着店業者を商標法違反の容疑で逮捕した。先の女子大生は「ファッションなのにありえない」と警察への憤りを隠さないが、そもそもが偽物だ、と説明すると返す言葉に困った様子。
「違法・密造」といったニュアンスの「ブート品」。1980年代にアメリカで作り始められた「偽ブランド品」がその発祥とされているが、その有名製造元は1990年代初頭に廃業。ところが近年、本家の有名高級ブランド自身が、その海賊版をほうふつとさせるポップなデザインのアイテムを発表したことにより、皮肉なことに、かつて流通した偽ブランド品が巷では高値で取引される事態となっている。もっとも、高級ブランドによるポップなデザインの品々は、高級ブランドらしくしっかりした品質のものだが、ブート品と称して売られている偽物は海賊版らしい程度の質しかない。
 しかし、前述の女子大生のように価値があると信じて購入する人は後を絶たず、そしてブート品が「違法」であるという認識を持つ人は少ない。知ったところでファッション、オマージュといった言葉を用い、どうにか所有や着用を正当化しようとする。
 同じく、東京・原宿の竹下通りにあるアパレル店・X。ここでも、グッチやイブサンローラン、シャネルといった高級ブランドの古めかしいロゴが入ったTシャツやトレーナー、キャップなどを扱っている。全てが"ブート品"だ。通りで強引な客引きをすることでも有名な同店店員に、ブート品について聞いてみると……。
──ブート品は偽物ではないのか?
「これはアメリカのファッション文化。厳密にはロゴも違うしパロディ商品」
──正規のブランド品、ブランド品の古着だと思って買っていく客もいるが
「ファッションを知らない人にいろいろと言われる筋合いはない」
──商標権の侵害をしているのではないか
「儲けは少ないし、ただ仕入れているだけ……」
 こうした問答を繰り返していると、すぐに店からつまみ出された筆者。男性ファッション誌で活躍するスタイリストは、同店をはじめとした「ブート品」を取り扱う店について、次のように説明する。
「確かにブート品はアメリカで流行りましたし、その古着が結構日本に入ってきている。ただ現在は、当時のアメリカのブート品ではなく、新たなボディ(※無地のTシャツやトレーナーなど)にそれっぽいロゴを印刷して売っている業者もある。原宿のX店で扱っているものはブート品どころか、ブート品に似せて作られた偽物の偽物(笑)。現に店員は、何も知らない若い子を通りでキャッチして店に連れてきては、ブート品が存在しないはずのシュプリームやナイキ、アディダスの人気商品を"ブート品"だといって売りつけています」

 そもそもファッションの世界で「ブート品」と呼ばれるのは、1980年代から1990年代初めに流行した、ルイ・ヴィトンやシャネル、グッチなど高級ブランドのロゴを用いたカジュアル衣料のことだ。1994年創業で、スケートボードファッションとしてスタートしているシュプリームは対象外だ。スポーツブランドであるナイキやアディダスも同様の理由でありえない。だが、海賊版やファッションそのものについてあまり知識がない若者たちは、違いがわからない。

 確かにおしゃれな感じがする「ブート品」だが、平たく言えば「単なる偽物」。そもそも本家本元の「ブート品」も、アメリカ・ハーレム街でアウトローな商店主によって、違法であることを承知のうえで生み出されたもの。今でいう「反社会勢力」によって、カネもうけのために作られた粗悪品なのだ。「偽物は恥ずかしい」というまっとうな感覚を、若者にはぜひ取り戻してほしいものだ。


違法薬物を「脱法ハーブ」と呼んで、ハーブという名前であまり問題がなさそうに思わせるのと同じ。
言葉のイメージ利用、あるいはイメージに流されて本質が見られない認知の劣化。
まがい物、偽物と呼べばイメージが悪いが、ブート品と呼べば悪いイメージを持たれない。イメージ操作のための言葉。
「逮捕される」という事実がなければ、どこが悪いのか解らない、
善悪概念の劣化。