日本のパスポートは偽造されやすい


暴力団関係者が明かすパスポート偽造の驚くべき手口

2018/11/02 07:00
News ポストセブン

警察の内部事情に詳しい人物、通称・ブラックテリア氏が、関係者の証言から得た警官の日常や刑事の捜査活動などにおける驚くべき真実を明かすシリーズ。今回は、ある暴力団関係者が積水ハウスの地面師事件とパスポート偽造についてディープな情報を明かす。
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 積水ハウスが約55億円をだまし取られた地面師事件は、地上げをシノギとする暴力団でも首を傾げることが多いという。
「不動産なんて、ほんとに欲しい人は誰が持ち込もうと関係ない。ロクでもないブローカーが持ってきた案件でも、成立すればいいんです。でもね、確認や内見したといっても、あれだけ大手が一気に金を払うなんて考えられない。他にもいろいろ噂が流れていたのに、実際あの金額が動いている。それに去年、この事件が表沙汰になった時、積水はまだ所轄署に詐欺相談をしただけで、被害届は出していなかったと聞くしね。内部で何があったんだろうって思っちゃうわけですよ」
 暴力団幹部ですら、ズサンすぎると呆れるぐらいのこの事件。
「あそこは最初、違う地面師が扱ってたって話で、養子に入れて…というたくらみがあったと聞いてます。でも実際はなりすましが出てきた」
 なりすまし役の羽毛田正美容疑者が身分証明に使ったのはパスポートだ。運転免許証など持たない高齢者では、身分証明にパスポートを使うことも多い。羽毛田容疑者の逮捕容疑は、パスポートなどの偽造有印私文書行使など書類の偽造であり、55億円の詐取容疑ではない。
 パスポートについては精巧な偽造だと報道されているが?
「いや、あれは本物だと思いますよ。偽造された本物のパスポート」
“偽造された本物”とは…?
「パスポートの偽造は、戸籍謄本さえ取れれば簡単だからね」
 今は個人情報の問題で、戸籍謄本を簡単に取れなくなった。そのため偽の弁護士事務所の名刺を作って、謄本を取ろうとするケースや、本人の委任状を作り身分証明書と一緒に持っていくという手を使うこともあるという。
 実際のやり口はこうだ。
「なりすました者がパスポートを取るには、その人に合った年齢が条件。写真は規格通りであればOK。あとは申請する場所が問題。今回のように地主本人の本籍地が東京で、なりすましがパスポートを身分証明に使うなら、申請するのは東京じゃないとまずい。でも同じ区である必要はない。パスポートの本籍には“東京都”としか載らないからね」
 確かにパスポートの本籍地には、都道府県しか載っていない。今や運転免許証ですら本籍地は載っていない。
「戸籍謄本が取れれば、まずは勝手に他府県に本籍を移動する。東京なら神奈川に移転。次に神奈川から埼玉に移転する。その後に埼玉から東京の違う場所、本当の本籍地が港区なら新宿区でも足立区でもいいから移動。そして本籍地を移動したと同時に、住民票も移転」
 手間暇と時間をかけて、彼らが用意しているのがわかる。
 ところで、何度も移動してバレないものなのか?
「よっぽどのことがない限り、普通は住民票や戸籍謄本なんて取りにこない。だから勝手に移転されていても、それに気がつくことはないね。
 それで申請すれば、パスポートを取ることができる。パスポートセンターは申請した人の顔と顔写真が一致して、有効期限内の必要書類が出ていればいいわけで。その後で、手書きで必要な住所を書いておけばいい。その住所が本当に必要かといえば、みんなそこまで見ないんでね」
 移動した本籍と住民票はどうするのか?
「元に戻しておけばいいだけですよ。戻した後の謄本は申請に必要ないから。印鑑証明とか住民票は、3か月とか使える期限があるから、新宿区か足立区か、本来の戸籍がある港区に戻す前の謄本を持って申請に行けばいい。3か月以内なら、港区の謄本はいらないんでね。申請すれば引換券を渡してくれるから、それを持って引き換えに行けばいい」
 斯くして、パスポートセンター発行の本物のパスポートが手に入ることになる。
「パスポートというのは、申請して発行されれば過去歴は消え、いつも新しいパスポート番号になるんですよ」
 ここが運転免許証との違いであるという。言われてみれば確かにそうだ。
「運転免許証のほうがよっぽど偽造は難しい。なぜなら発行年月日が免許証番号として載っている。免許証は失効して新しいのをもらっても、番号はずっと一緒なんです。取り消し処分になって新たに取らない限り、番号は変わらない。運転免許証を偽造した人が、免許証を身分証明に使っても、運転しないのはそこなんですよ」
 他にもパスポートを取得する方法はあるのか?
「養子に入る方法だね。人に断らなくても、勝手に養子にはなれる。自分も、何回も名前を変えてますから。
 例えば、○○さんの戸籍謄本をあげられれば、養子縁組届の養子のとこに自分の名前を、保証人が保証人欄に署名して出せば、その日から自分は○○。その謄本を持ってパスポートセンターに行けば、○○姓のパスポートが取れちゃう。前の名前のパスポートを持っていようが問題なく取れます。1週間後に戸籍を離れ、元の姓に戻っても○○姓のパスポートは持っていられる。旧姓のパスポートは法律的に問題ないからね。するとパスポートが2枚持てる」
 ふっふっふと幹部は楽しそうな声を上げて笑った。
 昔は年齢が合うホームレスを誰かの養子にして、その養子になりすまし、パスポートを申請する手口が流行ったという。
「それで渡航している分には絶対バレない。戻ってきてもバレない」
 このようななりすましができるのは、日本人が日本を出入国する際に、指紋認証がないためだと幹部は力説する。
指紋認証されちゃうと名前を変えても、『お前は何々だな』って出ちゃうんでね。といっても犯罪歴がなければ、普通にパスポートを取っていれば、名前を変えていようと全然関係ない。犯罪歴がなければ、その指紋に対応しないからね」
 地面師詐欺で養子の手口を使った場合、そのままではバレると思うが?
「バレないようにするには、分籍ですよ」
 そのままの戸籍謄本だと、○○の息子になったので、本籍地は○○の本籍地になるが、謄本には養子として載っている。だが違う区に移転して、戸籍を分籍してしまえば、自分だけの戸籍謄本になる。過去歴が載った謄本を取らない限り、養子とは表記されないのだ。
渡航さえしなけりゃ、使った後で燃やして捨てればいい。簡単っちゃあ簡単ですよ。詐欺師の中には、どこの他府県の出張所が“柔らかい”とか、知っているやつがけっこういるんでね。都会の区役所なんて、1日にどれくらいの人がくるかわからないから、絶対に覚えていない。同姓同名も多いんでね。誰も不思議に思わないんですよ」
 きちんとした身分証明書を持っていれば、最初からそれが危ないと疑う人は少ない。法律の穴や人の心理の隙間をつけば、詐欺も偽造もやり方はいくらでもあるということだろう。