タレントを支配する巨大利権「テレビCM」のしくみ

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49869

ジャニーズ事務所はなぜSMAPを潰したのか
「ザ芸能界 TVが映さない真実」第1回 

その理由、、書いてないじゃん

SMAP解散。そのとき芸能界の大物たちはどう動いたか
「ザ芸能界 TVが映さない真実」第2回
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49981


「芸能界55年体制」はこうして確立された
「ザ芸能界 TVが映さない真実」第3回
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50056


能年玲奈「干されて改名」の全真相 〜国民的アイドルはなぜ消えた?
「ザ芸能界 TVが映さない真実」第4回
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50115


能年玲奈が「のん」になって得たものと失ったもの
「ザ芸能界 TVが映さない真実」第5回
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50166


タレントを支配する巨大利権「テレビCM」のしくみ
「ザ芸能界 TVが映さない真実」第6回
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50219


タレントを支配する巨大利権「テレビCM」のしくみ
「ザ芸能界 TVが映さない真実」第6回

売れるも消えるもCM次第

テレビコマーシャル(以下CM)は、タレントを全国民に認知させ、売り出すという戦略の上できわめて重要である。時にそれはドラマ出演やヒット曲を凌ぐ効果をもたらすこともある。成功すれば、タレントと芸能プロダクションの関係性までも大きく変える。
例えば、SMAPだ。
 
SMAP以前、ジャニーズ事務所の所属タレントと契約する企業は、若年層をターゲットとした菓子メーカーなどに限られていた。そんな中、SMAPは'91年にパナソニックの商品CMに出演、'95年にはNTTの企業イメージCMにも起用された。
広告業界パナソニックやNTTは「ナショナル・クライアント」と呼ばれる。全国規模で販売促進、宣伝を行う十分な予算を持った大企業のことだ。また、商品を前面に出す商品CMと違い、企業イメージCMへ起用されることは、タレントのステイタスである。
ナショナル・クライアントの企業イメージCMに起用されたSMAPは、単なる「少年アイドル」の範疇から抜け出し、ジャニーズ事務所内で圧倒的な存在感を持つようになった。
また前回、前々回取り上げた女優・能年玲奈(のん)はNHK連続テレビ小説あまちゃん』で主演を務める前、「カルピスウォーター」の商品CMに抜擢されている。これは彼女が所属していたレプロエンタテインメントが、スポンサー企業に能年を起用するように強く働きかけたためだった。
レプロは、社長の本間憲が自らクライアントに営業をかけ、自社の所属タレントを継続的に使ってもらうという戦略をとっている。グリコなどがその一例である。CMは、芸能プロダクションの「力」を見せつける場でもあるのだ。
それだけに、CMは期せずして、あるタレントや俳優、女優を世の中から「消し去る」役割をも果たしてしまうことがある。出演者が不祥事を起こした際の「放送自粛」によって、である。
記憶に新しいのは、今年はじめにミュージシャンとの不倫が発覚し、すべてのCM出演枠がなくなったタレントのベッキーだろう。当時、ベッキーは10本のCMに出演していたが、春にはクライアント全社が打ち切りを決定。
現在、彼女のCMを見ることはない。この不祥事に際して、総額4億円もの違約金が発生した、とも噂されている。
また、元モーニング娘。矢口真里の場合は、今年3月から放送された日清食品の「カップヌードル」のCMで、自身の不倫騒動を「自虐ネタ」として取り上げたことが視聴者の不評を買った。同社には苦情が殺到、CMはほどなく打ち切りになった。
このような情報は芸能マスコミの報道にもとづいて、いわば「都市伝説」のように語られがちである。しかし、芸能プロダクションも一企業体であることは、これまでの連載でも繰り返し報じてきた通りだ。そして、CMもまた、数多くの企業や組織がかかわり、法と契約にもとづくれっきとした「ビジネス」であることは言うまでもない。

芸能人が出たいCMとは

CMと芸能界の力学を理解するうえで、避けて通れないのが、総売上高2兆円を誇る広告代理店最大手・電通の存在だ。
'53年に民間テレビ放送局、つまり民放が開局すると、電通はすぐに本社・大阪支社にテレビ担当部署を新設した。同年、全広告費における電通の占有率は前年の16.2%から24%に急増している。テレビの広告費が新聞のそれを超えたのは'75年である。
テレビCMと電通の飛躍は切っても切れない。
 
なお、広告業界は大きな金が動く世界だ。関係各所への影響を考えて、記事中の証言はすべて、複数の広告代理店関係者を取材、精査したものを使用している。電通と、広告業界不動の第2位である博報堂のCM制作方針を対比してみると、電通の影響力の源泉が分かる。
博報堂のクリエイティブは職人気質の人が多く、営業の指示を聞かない傾向がある。一方、電通は体育会系というか、営業の意向を汲んでくれる。その体質が業界ナンバーワンのクライアントに向いている。
例えば、トヨタ自動車トヨタは自分たちがどんな広告を打つべきなのかはっきりと分かっている。広告代理店は自分たちの言うことを聞いてくれればいいという考え。その意味で電通トヨタが右と言えば、みんなが右を向いてくれる。
一方、業界2位、3位の企業は、どのように広告を打つべきか悩みがある。一緒に悩んでくれる博報堂は彼らにとって心強い。つまり電通は業界1位の企業に、博報堂は2位以下に強い」
電通が制作するCMに出演することは、タレントにとって、「誰もが知る業界トップ企業の広告塔になれる」ということを意味する場合が多い。

実は、電通のような広告代理店と、タレントを抱える芸能プロダクションが直接取引をすることは原則としてない。ましてや前出のレプロのように、プロダクションがクライアント企業と交渉するというケースは完全な例外である。
通常、広告代理店と芸能プロダクションの間には「キャスティング会社」と呼ばれる、文字通りタレントのキャスティング仲介を専門とする企業が入る。
「タレントを抱えているのは大手プロダクションから個人事務所まで様々なところがある。ひとつのキャスティング会社は、1000社以上のプロダクションと仕事をしているといわれています」
広告代理店にとっては、クライアントこそが絶対である。しかし、もしクライアントの方針が覆った場合、広告代理店が芸能プロダクションと直接交渉していると、両者の条件をうまく調整することが難しい。そのため、キャスティング会社という緩衝地帯を作っているともいえる。
「テレビCMはプロダクション側としては実入りのいい仕事。ただ、タレントのイメージを守らなくてはならない。もちろん、ナショナル・クライアントのCMならば誰も文句は言わない。しかし、女性タレントならば生理用品のような商品広告、あるいは消費者金融のCMなど、出るか出ないかジャッジを下す必要が生じる場合がある。
ジャッジを下すことが出来るのは社長しかいないということもある。ジャニーズやホリプロのように広告担当窓口をきちんとおいている企業はごく一握り。オーナー社長が全ての権限を持っている場合が多い。そうした際の談判といった、具体的交渉をキャスティング会社がやるのです」

「ヌードはNG」の契約書

キャスティング会社は「粗キャス」という、ターゲットに合わせた大まかなタレント起用リスト作りをすることがある。それは広告代理店の制作部門「クリエイティブ」とタレントの相性があるからだ。
「若い人をターゲットとした商品、例えば日清食品カップヌードルは、面白くて破天荒なCMを作りますよね。そうしたCMは、イメージを大切にするプロダクション、例えばジャニーズ事務所とは相性が悪い。ジャニーズのタレントは、定番の商品に投入すると、そこそこ売り上げを伸ばしてくれる。
ジャニーズは打ち合わせがとにかく細かい。ただ、やるべきことはきちんとやってくれるし、成果も出す。スマートな優等生という感じです。そもそも値段も安い。事務所の方針として、CMに頼らないというのがあるのでしょう。
例えば、SMAPは5人で1億数千万円。本来、1人5000万円でもおかしくない。5人ならば2億5000万円です。これでもだいぶ安く使える」
メディアのコントロールが巧みで、悪い報道が出にくいプロダクションほど、広告代理店としては使いやすい。
 
芸能プロダクションにとって、CMは数千万円単位の収入になるおいしい仕事だ。しかし前述したベッキーのケースのように、タレントが不祥事を起こした場合、巨額の損害賠償や違約金を抱え込む可能性もある。
どのような法的根拠から違約金が発生するのか。そこで筆者は、あるタレントとキャスティング会社が交わしたCM契約書を入手した。該当箇所には、こう書かれている。
〈 甲(キャスティング会社)、乙(プロダクション)は、相手方の品位・信用・企業イメージ・商品イメージ等を損なうような言動をしてはならず、乙は丙(タレント)に甲の品位・信用・企業イメージ・商品イメージ等を損なうような言動をさせてはならないものとする。
甲ならびに乙は、本契約に基づく丙の広告出演及び広告使用において、丙の培ったイメージを損なわないよう配慮する 〉
広告代理店関係者に尋ねたところ、これはCM契約書においてはごく一般的な規定だという。ただ、この〈品位・信用・企業イメージ・商品イメージ等を損なうような言動をさせてはならない〉という表現は曖昧で、いかようにも解釈できる。
電通博報堂も同じですが、契約を結んだということが大切。掛け捨ての保険のようなものです」
つまり事実上、プロダクションとの訴訟が起こることは想定していない。契約書は、いわば両者の合意を示す覚書に近い。
女性タレントの場合には、契約内容に〈ヌードにならないこと〉などの条項が付け加えられることもあるという。ある意味で、CMの契約内容がタレントたちの活動を縛っているともいえる。
「芸能プロダクションというのは、これからも存在し続ける。もし一つのプロダクションと喧嘩をしてしまうと、今後、そこに所属するタレントが使えなくなってしまう。そういうトラブルを広告代理店は避けたい。
万が一、広告代理店の営業担当部署が『プロダクションを訴えたい』と上に言っても、全体の利益を考えて、それを認めることはない。裁判になれば、契約の細かい内容まで明らかになる可能性がある。もし代理店側にも落ち度があれば、大きなダメージを受けることになりますから」
ただし、広告代理店がクライアントの顔色をうかがって、代金を自主的に返納するケースは珍しくない。
「広告代理店の体質はクライアント至上主義。頭が上がらないんです。話がつく前に『お金は返します』なんて言ってしまう営業もいる。クライアントが年間30億円ほど広告費を出しているとすると、取り引きしている広告代理店の収入は3億円から5億円程度。
この収入がなくなってしまうならば、例えば3000万円、5000万円程度の賠償金で済むなら払ってしまえばいいと考える」
ではその金を、広告代理店は芸能プロダクション、及びタレント側に請求するのだろうか。
ベッキーのように、本人が払うという意思表示をしている場合は請求することもあります。ただ、過去に同じようなことがあったときは、タレントが『もうギャラは使い切ってしまった』というケースがあった。無い袖は振れないですから、その場合はどうしようもない」
広告代理店とキャスティング会社の双方にとって、人気のあるタレントは「キラー・コンテンツ」と言える。それを持っている芸能プロダクション、事務所とはなるべく事を構えたくない。要は「力関係」なのである。

CMほどおいしい仕事はない

ただ、不祥事の際の対応力は芸能プロダクションによって大きく異なる。
「ジャニーズのように、きちんとマネジメントするところと、ベッキーのようにタレントに全部任せてしまうところがある。ベッキーのときは、本人たちがこう言おう、というのをLINEで検討していたと報じられましたが、ああいうことはジャニーズだと考えられない」
 
タレントが不祥事を起こしても、ほどなくCM復帰を果たせる場合と、半永久的に姿を消してしまう場合がある。両者の違いも、こうしたプロダクションの対応方針に左右されるところがあるのは間違いない。
「クライアントと代理店はサラリーマン社会。一方で、プロダクションはオーナー企業が多い。オーナーの統制力がものを言うわけです。僕らとしても、タレントにいちいち確認しないと答えが出ません、というプロダクションはやりづらい。後でひっくり返されるとたまりませんから。
極端なことを言うと、ジャニーズなんかは、撮影現場でタレントが初めて『今日はお菓子のCMだったのか』と知ることもある。変な話ですが、僕らとしてはそのほうが望ましい」
タレントに裁量権を認め、その結果、広告代理店やクライアントの不興を買うと、芸能プロダクションは巨額の実入りを逃すことになる。ましてベッキーのように、タレント本人の判断のせいで、すべてのクライアントに逃げられてしまえば元も子もない。
CMは出演するタレントのみならず、プロダクションの浮沈をも握っているとも言える。


(文中敬称略、以下次号)週刊現代」2016年11月19日号より