日本最大のタブー地帯 京都・崇仁地区

日本最大のタブー地帯
 京都・崇仁地区に「熱」と「光」を


JR京都駅東側、京都市下京区七条通から東海道線を挟み、南に下り九条通まで、東に鴨川、西に河原町通りに囲まれた地域、通称「崇仁地区」。関西最大級の部落であり、また東海道線より南の東九条在日コリアンの集落として知られる。まさに“同和と在日”の街。狭い路地に雑然と家屋、老朽化した市営住宅が並ぶ。観光地・京都市の玄関口にも関わらず陰惨な光景が広がった。そこに暴力団地上げ屋が密接に関わり、様々な事件、トラブルを起こしてきた。しかしそんなダークスポット、崇仁が今、変わろうとしている。血塗られた過去を超えて、訪れるのは光と熱か。それとも―――。本稿は現地取材、関係者の証言を元に崇仁に迫る。
同和地区、在日コリアン居住地という地域的な特性に加え、暴力団地上げ屋も絡む崇仁は長らくアンタッチャブルな存在であった。しかし2015年3月、「京都市立芸術大学移転整備基本構想」が策定され、同大が崇仁地区に新校舎を建設する計画が決定した。市芸大を誘致し、学生街として再開発しようというわけだ。さらにラサール不動産投資顧問株式会社という世界的ファンドも崇仁への投資開発に乗り出した。同社の中嶋康雄代表取締役兼CEOを最高顧問に、そして元宝塚市長・正司泰一郎氏を理事長とする「京都駅東地区市街地再開発準備組合」が結成された。同組合の理事には、小林節慶大名誉教授ら著名人も加わり、本格的に崇仁の再開発が進もうとしている。
また市芸大の移転候補地の一角(下京区上之19-6)に地域・民間・学識が連携して設立した「 一般社団法人渉成楽市洛座しょうせいらくいちらくざ 」が運営する「崇仁新町」が今年1月25日にオープン。屋台村やワークショップなどが営業され、連日賑わっている。ラーメン好きという人ならばご存じだろうか。京都風ラーメンで有名な「新福菜館」の道を隔てた真向かいに崇仁新町がある。屋台の盛り上がりは、すでに関西地方のテレビ番組で取り上げられたほか、SNSなどでも投稿されていた。崇仁を語る上で、欠かせない「有限責任中間法人崇仁協議会」への取材アポも取れた。難しい取材は、後回し。とりあえずこの「崇仁新町」を楽しんでみることにした。

ちょぼ、ちょぼっと焼く「ちょぼ焼き」はソウルフード

崇仁新町の営業時間は、午前11時から午後23時まで。飲食店など15店舗の屋台で構成されている。崇仁新町を担当する京都市都市計画局住宅室すまいまちづくり課によると、市芸大が移転する前に地域を活性化させるのが狙いだという。敷地は市の土地で、無償で提供している。営業は、2020年度上半期まで。約2年半、屋台で人を集め、崇仁地区を盛り上げるというわけだ。
さて報道やネット上で最も話題になったのが「ちょぼ焼き」だ。当初、崇仁という特性上、「ちょぼ」とは、朝鮮語や同和地区の隠語のようなものかと思っていた。ところが実際に食べて話を聞くと事情が異なった。

丸いくぼみが点々とついた特殊な鉄板で「ちょぼ、ちょぼ」と焼くことからこの名がついたそうだ。形状のイメージとしては、たこ焼きの半分と思ってもらえればいい。だから一説には、たこ焼きのルーツとも言われる。具と言ってもベースは、たくあんとちくわ。それにスジ肉や明太子などのトッピングをつけたものもある。
店主によればその昔は、崇仁でちょぼ焼きを出す店は4~5店ほどあったそうだ。この周辺のソウルフードだったという。今では、お好み焼き店はいくつかあるが、ちょぼ焼きを出す店は消えた。だから高齢者の客は、「懐かしい」と言って食べている。さて実際に食べてみると――。まあお好み焼きとたこ焼きと中間といったところか。まだ食材が十分ではなかった時代の「おやつ」という雰囲気だ。

屋台を切り盛りする人たちはみな地元の住民で、専門の飲食業者ではない。まあ正直言ってしまえば決して安くはない。屋台街という珍しさが人を集めている。なんというかサブカルチャー風味の雰囲気造りのため“オシャレ闇市”といったところか。どちらかと言うと客層は、若者が多い気もした。また外国人観光客も目に付いた。
なにしろ2月。今年は特に寒い。だから暖房はストーブのみだ。ビニールカーテンで屋台の入り口につけられており、場内は暖かい。やや足元が冷えるぐらいだ。
運営者の一人によると
「ビニールカーテンはもちろん寒さ対策もあるんだけど、市の方から“中の匂いを表に出すな”と指導がありましてね」
なるほど。しかし今は冬だからまだいい。エアコンがないということは、夏は一体どうなるのだろう?
「さあ(笑)。今年初めてだから。夏のことはまだ分からない。まあなんとかするんでしょ」

京都は夏も厳しい。ビニールシートに仕切られた屋台で、冷房なしというのは厳しいはずだ。また複数で来ていた、若いサラリーマンの一行に感想を聞いてみるともちろん崇仁というのが長年、アンタッチャブルな存在だということは知っていたが、テレビのニュースを見て来店したという。
「ほら京都って景観対策が厳しいでしょ。だから屋台って珍しいんですよ。だからみんな来ているんじゃないですか」
おおかたこんな調子だ。どの店も決して安くはない。価格帯はチェーン居酒屋よりも割高だから、あくまで雰囲気を楽しむといったところ。ただ「崇仁」という陰惨な過去を持つ町を一新し、活性化させるという点については大いに効果があるかもしれない。とまあ屋台で活力を頂き、本命である崇仁のウラ側の取材に臨みたいと思う。


カテゴリー: ウェブ記事 | タグ: 京都, 同和 |
投稿日: 2018年2月19日 | 投稿者:

三品純 について

フリーライター。法政大学法学部法律学科卒。 月刊誌、週刊誌などで外国人参政権人権擁護法案、公務員問題などをテーマに執筆。「平和・人権・環境」に潜む利権構造、暴力性、偽善性を取材する。